ぽっぽ屋備忘録

にわかな鉄道好きによる日々の撮影の備忘録

Report No.160 マルチプレイヤー

 本邦でオール二階建て車両というとE1系新幹線やE4系新幹線、あとは先頭車に目をつむれば215系程度であるが、諸外国に目を向けるとオール二階建て車両というのは存外メジャーな車両カテゴリーである。通勤電車というジャンルの中で見ても、諸外国、特に欧米では大都市圏を中心に数多く二階建て車両が運用されている。むしろ、日本の首都圏のように平屋の通勤電車が10両や15両といった長大編成で走っていることのほうが珍しいのではないだろうか。

 軌道条件や車両限界等、種々理由はあるのだろうがダイヤ設定における思想の違いも一つ大きな要素としてある。日本で通勤電車といえば、停車時間は主要駅で1分以上あれば長い方である。むしろ、大阪や東京といった地域の通勤電車であれば、30秒以内の停車というのが最長といったところも多いかと思う。これは、日本の通勤需要が他国に比べても異様に高いが故の過密ダイヤであることに起因しているものだろう。対して、欧米と言えば、通勤時間帯でも比較的余裕のあるダイヤ設定となっている印象だ。だからこそ、日本では半ば失敗に終わってしまった215系のようなオール二階建て車両でも通勤電車として運用することが可能なのだろう。

 スイスにおいては、通勤から都市間急行列車まで幅広く二階建て車両が活躍している。そして、これらの運用を手広くこなしているのがRABe511形電車である。スイス・Stadler社製のこの車両、近年ではKISSの愛称のもとに西欧のみならず東欧圏、はたまた旧ソ連圏各国へ輸出されており、欧州製電車の新標準の一つとなりつつある。RABe511の中でも特に地域間急行Regio Express(RE)に充当されるものは6両編成のものがあり、その二階建ての巨体も相まって被写体としては迫力十分である。2017年の渡欧では、SevelenにてEuroNightの撮影(Report No.110 Guten Morgen - ぽっぽ屋備忘録)ついでにと、RABe511にて運行されているChur行きREを撮影した。

RABe511 RE Chur

 ぱっと晴れたSevelenの町から見るAppenzell Alpsの美しいこと。秋の寒さに少々凍えながら構えているとRegio Expressがその巨体に似つかわしくない静かさで滑るように走ってきた。背後の山と距離があるとは言え、さすがは2階建て。画面の山の高さの半分にも迫ろうかというそのマルチプレイヤーの巨体は勇ましい限りだった。