ぽっぽ屋備忘録

にわかな鉄道好きによる日々の撮影の備忘録

Report No.154 バイエルンの夏

 欧州の夏は短い。日本のように9月を過ぎても暑いというようなことはあまりなく、9月も半ばになれば朝夕は長袖にジャンパーが必要になる。それでも、まだ9月は日中になればぽかぽかと温かく、野山の緑は夏最後の瑞々しい輝きを見せる。

 2019年9月の訪欧では、ドイツ・バイエルン州のアルゴイ線を走るスイス方面国際列車を狙った。バイエルン州はドイツの中でも畜産が盛んな地域であり、アルゴイ線は森と放牧地の間を縫うようにして走る。夏の最後を記録するにはこれ以上ないといってもいい路線である。

 アルゴイ線経由を走るスイスとドイツを結ぶ国際列車はDB(ドイツ鉄道)218形にSBB(スイス連邦鉄道)客車を連結する形で運転されている。日本ではすっかりすたれてしまった客車列車だが、電化方式や地上設備仕様、右側・左側通行、時には保安装置の方式までそれぞれの国で様々な仕様が入り乱れる欧州では、機関車を付け替えるだけで容易に国際列車を運行することができるため、まだまだ客車列車が数多く残っている。だが、徐々に国際直通対応の電車列車も増えており、遠くない日にこれら客車列車たちも記録の中の存在になっていくのであろう。かくいうアルゴイ線を走る国際列車も2020年末のメミンゲン~リンダウ間電化工事完了に伴う2021年からの電車特急への置き換えが決定している。

 アルゴイ線沿線には数多くの撮影地が存在するが、今回は早朝にスイス・チューリヒへ向かうEC196列車とドイツ・ミュンヘンへ向かうEC191列車を狙うべくオーバーシュタウフェン(Oberstaufen)周辺の撮影地へと足を向けた。この日9月15日の天気は早朝か快晴。秋の足音を感じさせる冷たい朝露滴る朝をOberstaufenはZellの丘で迎えた。

 ズボンの裾と靴をぐっしょり朝露に濡らしながら線路を見下ろす丘の上で陣を構える。この時線路はあたり一帯に垂れこめていた朝霧の中。EC196列車通過までに晴れてくれるのだろうかといささかの不安をいだいたが、朝日が昇るにつれみるみる霧は晴れていった。

DB Br 218 EC191 Oberstaufen

 そして放牧地の緑がひときわ輝きだしたころ、218形がエンジン音を重奏しながらSBB客車を引き連れて眼前の舞台に現れた。バイエルンの夏に響き渡るエンジン音のなんと素晴らしいことか。朝日に照らされ218の赤がことさら鮮やかに見えた。

DB Br218 EC196 Oberstaufen

 EC196列車を撮影後は反対方向からくるEC191列車を狙うべく少しばかり移動。今度は線路が森の中をS字を描いて抜けてくる場所だ。待つこと30分ほどだっただろうか。それまでの静粛を破って野太いエギゾーストノートが森を抜けてきた。一等車増結がかかっており編成は堂々の8両。218重連は客車たちを力強く引き連れミュンヘンへと駆け抜けていった。