ぽっぽ屋備忘録

にわかな鉄道好きによる日々の撮影の備忘録

Report No.153 弾丸機関車

 日本が新幹線を開業させたころ、ヨーロッパではまだまだ機関車牽引の旅客列車が全盛であった。ドイツでは積極的な線路改良や車両開発を行い、200km/hでの特急列車運転を計画した。その中で生まれたのが103型電気機関車である。流線形の流麗なフォルムとクリーム地に赤色の帯のその様は、ある意味工芸品と言ってもいいだろう。いまだに世界各国で鉄道ファンを魅了して止まないのも当然のことである。

 現在では103型の定期運用は消滅してしまっているが、動態保存されている機が時折臨時列車の牽引機として駆り出されてくる。昨年2019年は、鉄道模型の老舗、メルクリンが2年に一度9月開催するメルクリンターゲと呼ばれる祭りが行われる年であった。メルクリンターゲは、ドイツ南部シュトゥットガルト(Stuttgart)近くのゲッピンゲン(Göppingen)駅およびゲッピンゲンにあるメルクリン本社で開催され、駅にはドイツやフランス、スイスといった周辺国から保存車両や現役車両が持ち込まれ展示が行われる。このメルクリンターゲに合わせて、つい一昨年本線復帰した103型の試作車、E03型の1号機と103型113号機がプルプッシュの形態で特別列車を牽引するという情報が舞い込んできた。これは撮影に行くしかないだろうと友人たちと遥々ドイツはAugsburgの地で集合した。

 9月といえどヨーロッパはもうすでに秋の足音がすぐそこまで聞こえるような朝の冷え込み。早朝にAugsburgの宿を発ち、車を2時間ほど飛ばし、クライルスハイム(Crailsheim)駅近くの撮影地へとはせ参じた。既に到着していた現地ファンと共に朝露でしっとり濡れた牧草地のあぜ道に陣を張った。背景の空はうっすら雲がはる秋空。太陽方向はヌケがいい。これは期待できそうだ。

Br103.113 TEE Br E03.001 Jagtzell

 インターシティー列車が2本ほど行ったあと、柔らかい朝日の中に照らされながら103型牽引の特別列車がやってきた。”弾丸”のような流線形の横顔が朝日でキラリとひかる。なんと美しいことか。

 編成は103-113を先頭にTEE客車7両を引き連れてE03-001が最後尾につく形。列車はこの向きのまま一旦シュトゥットガルトを経由してからゲッピンゲンへと向かう。そこでこの間を利用してゲッピンゲン近くまで先回りすることにした。

Br 103.113 TEE Br E03.001

 ゲッピンゲン駅から少しシュトゥットガルト寄りのウーインゲン(Uhingen)の撮影地へついてみると、既に大勢のファンが列車の通過を待っていた。先ほどは編成気味で狙ったのでここは少し広角気味に狙ってみようということで、サイド気味に構えてみた。待つこと30分ほどだったろうか。最新鋭ICE4が行きかう合間を縫って、古豪103型が軽やかに走ってきた。終点ゲッピンゲンはもうすぐだ。

 往路便を撮影後はしばしゲッピンゲンでメルクリンターゲを楽しんだ。このあと、ゲッピンゲンからの復路便はE03-001が先頭となるということで、これだけはなんとしても編成で押さえようという話になり、ウーインゲンの先ほどの逆アングルで狙うことになった。ゲッピンゲンからの復路便は夕方発。うまくいけば最高の光線で撮影できると期待が高まった。

E03.001+TEE+103.113

 天気は夕方になるにつれ改善する方向で、103型が出発する時刻にはほぼ快晴となっていた。日がだいぶ西に傾き、あたりがほんのり茜色に染まってきたころ、E03-001先頭のTEE列車は猛スピードでやってきた。試作機にしかない銀の飾り帯がこれまた勇ましい。斜光がひときわこの機関車の美しさを強調してくれたように思う。