ぽっぽ屋備忘録

にわかな鉄道好きによる日々の撮影の備忘録

Report No.108 2000mm

 蒸気機関車の性能を語る際、しばしばその動輪直径が話題に上がることがある。これはなぜかというと、実は蒸気機関車の場合、その動輪直径によって最高速度が左右されるからである。蒸気機関車は、まず燃料を燃やしてその熱で水を沸かし、蒸気を発生させる。そして、その蒸気をピストンへ周期的に送り込むことによって往復運動を取り出し、これを動輪同士を繋ぐ金属棒へ伝える”クランク機構”を用いて回転運動、そして牽引力へと変換する。このような熱機関と機械構造の組み合わせで石炭と水から回転運動を生み出している以上、ボイラーやピストン、クランクの材料特性や構造特性からして許容できる回転数には限界がある。ピストン・クランク機構から得られる単位時間当たりの回転数の上限が決まっているとすると、同じ単位時間当たりの回転数で速く走るためにはどうすればよいだろうか。速さとは単位時間あたりに進む距離であるので、同じ回転数でより多く進もうとするとそれはつまりより大きな動輪を設定するほかないのである。そこで蒸気機関車の設計においては速さが求められる際には大動輪が用いられるようになったのである。

 さて、日本の蒸気機関車の場合、最大動輪径はC51などで採用された1750mmである。国内で見ればこれが最大なのだが、国際的にみれば1750mmという動輪径はどちらかというと大型ではなく標準的とでもいうべきサイズである。海外の蒸気機関車を見てみると、線路が高規格であることや大きな建築限界を生かして2000mm以上の動輪を持つものが数多く開発されている。

 ドイツ国鉄が開発した03型蒸気機関車もまた2000mm動輪を持つ急行旅客用蒸気機関車である。03型はかの有名な01型蒸気機関車を元に設計された機関車で、軸重制限のある路線へ入線可能にするため軸重18トンとして再設計され、台枠の変更、ボイラーやピストンの小型化を行い軽量化を図ったものになる。つまりは01型の妹分にあたる機関車である。03型は298両と大量に製造されたため、9機が保存されているのだが、改良機である03.10型は60両しか製造されなかったため、保存機は2両しかなく動態保存機は1両のみである。そんな貴重な03.10型がラインゴルト(Report No.105 ニーベルンゲンの宝 - ぽっぽ屋備忘録)が運転された同日、同路線で後追いで運転されると知り、ラインゴルト通過後もしばし撮影を続行した。

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 ラインゴルト通過後も晴れ模様は続き、ラインゴルトからちょうど1時間後、ドイツ蒸気特有のハスキーな野太い汽笛と力強いドラフト音を響かせて03-1010が客車6両を率いて猛進してきた。標準機蒸気とだけあって通過速度は日本の比ではない。大きな2000mmスポーク動輪とその巨体で大地を揺らして華麗に走り去っていった。