Report No.55 我は海の子
我は海の子白浪の
さわぐいそべの松原に
煙たなびくとまやこそ
我がなつかしき住家なれ。
童謡、「われは海の子」の一番の歌詞である。この「われは海の子」で歌われている海がどこかというのはいまだに諸説あるようだが、松原と海、漁村と言った日本の海岸線の原風景ともいえるものを歌い上げた歌詞は多くの日本人の心象風景と合致するのではないだろうか。
さて、亀山駅を起点に紀伊半島をぐるりとまわり、和歌山駅まで走る紀勢本線は、伊勢湾、熊野灘、太平洋、紀伊水道とほぼ全線にわたって海岸沿いを走る路線である。険しい紀伊山地のすそ野と海の間を縫うように走っており、車窓から時折見える海の眺望には素晴らしいものがある。
かつては貨物列車や客車列車が闊歩していた紀勢本線も今や道路網の充実によって関西や中部方面からの直通特急列車以外は地域輸送主体の短編成電車・気動車輸送に切り替えられており、本線とは名乗るもののいわゆるローカル線となっている。JR西日本区間である新宮~和歌山間は電化されており、主に105系、113系、117系などが活躍している。近年では地域色塗装による単色化に伴ってこれら国鉄型車両はオーシャングリーンともいえる青緑色へ塗装変更された。この単色化は賛否両論あるものの、個人的に、この和歌山地区の青緑塗装は風景に溶け込むよい塗装であるように思う。
2014年の和歌山ディスティネーションキャンペーンに伴って運転された 紀勢本線トワイライトエクスプレスを撮影する際、古座俯瞰へと立ち寄った。古座付近の海岸は砂浜というよりは岩肌が露出する荒々しい作りで、海岸に沿って切り立った山々が連なっている。古座俯瞰からはこれらを一望することができるが、その光景はまさに圧巻である。
トワイライトエクスプレスが通過するより前の日の出直後、朝日によって浮かび上がる海岸線を青緑に塗られた2両編成の 105系がトコトコと駆けてきた。青緑の車体はまさに我は海の子と言わんばかりであった。
白波を立てる青い海を横目に海岸線を走り抜ける青緑の車両、そして背後の切り立った山々、そんな風景が今の紀勢本線である。