ぽっぽ屋備忘録

にわかな鉄道好きによる日々の撮影の備忘録

Report No.38 幻影

いまや日本から定期寝台列車は全廃されてしまい、”高級ツアー”として”ななつ星”や”カシオペア”などが臨時運行される程度になってしまった。かつては東京や大阪のような大都市から日本各地へ寝台列車が発着していた。中でも日本の大動脈、東海道山陽本線系統の寝台列車は花形であった。”さくら”、”富士”、”はやぶさ”、”あさかぜ”などの名門花形列車の中でいささか地味な存在であったのが”紀伊”である。”紀伊”は紀勢本線への唯一の寝台特急で、1978年に急行”紀伊”からの格上げで誕生した。東海道本線関西本線紀勢本線を経由し、東京~紀伊勝浦間1往復の運転で、14系寝台客車を使用して東京~名古屋間はEF65-1000が牽引し、名古屋~紀伊勝浦まではDF50(1980年まで)もしくはDD51が牽引していた。機関車用ヘッドマークは、”那智の滝”を図案化したものと三重県南部でよくみられる”はまゆう”の花を図案化した種類存在したのだが、当時はヘッドマークの掲出が行われることが少なかったようだ。

寝台特急紀伊”は利用客の減少によって1984年に廃止されたのだが、この”紀伊”の名前が2014年12月6日、一日限りで復活することになった。日本旅行による企画でサロンカーなにわ5両をDD51が牽引、紀伊のレプリカヘッドマークを掲出し和歌山線橋本から紀勢本線新宮までを片道走行することになったのだ。運転経路こそ違えど現役時代ほとんど掲出されることのなかったヘッドマークのレプリカが装着されるとあって友人たちと撮影に出向いた。

橋本駅発は9時8分、列車自体は前日の夜から回送されて朝まで橋本駅で留置されるとのことだったので日中の走行を撮影する前に橋本駅でバルブすることにした。

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NikonF4s/28-80mm/Velvia100

友人たちと共に橋本駅に着くと、そこには電源を落として朝の出発を待つ”サロンカー紀伊”の姿があった。牽引機のDD51-1192には誇らしげに那智の滝が描かれたヘッドマークが掲げられていた。牽引されている客車はあいにく青の寝台ではないが、こればかりは時の流れで仕方ない。だがそれ以上に、四半世紀以上の時を越えて”復活”したことが嬉しかった。